背筋がぞくっとした。腕を擦りながら、クーラーの温度を確かめた。低くはなかった。すると後ろから、「へえ。結構なところ、住んでんじゃん」と声がした。吃驚して振り返ると、よっ!と陽気に挨拶をしてきた。所謂悪魔みたいな格好をしていた。




「あ、あんた誰よ」
「俺?俺は、赤也。職業は、」




赤也という奴はそこまでいうと、瞬時に私の目の前まで来て(え、いつの間に?!)、「悪魔やってまース」といった。私は、「お母さ?!・・・んっ」叫ぼうとしたが、叫ばなかった。否、叫べなかった。奴に唇を塞がれたから。奴の、唇で。




「・・はっ、あ・・・んぅ、・・な、なにすんの!」
「はっごちそーさん。結構よかっただろ?」
「なっ?!」




私が殴ろうとしたら奴はひょい、と避けた。おーおー乱暴な姫さんだねえ、とけらけらと笑いながらいった。む、ムカツク・・・!奴は私のベッドの上に乗って、物珍しそうに部屋を見渡している。私が、「なにか?」というと、奴は女の部屋に入ったことねえんだよ、といった。へえ・・女遊びとかよくしてそうなのに。あ、偏見か。私は別にどうとも思わなかったのでふうん、とだけ返事した。そして奴は思い出したように、「あ、そうそう。アンタ、名前は?」と聞いてきた。




「私?だけど」
ね・・よし」




なにがよしなのかわからないけれど、まあ、名前くらい・・いいよね。奴も名乗ったわけだし。そんなことを思っていると、奴はゆっくりと口を開いて、「さて・・本題、いいか」といった。




「本題?」
「ああ。お前の、くれよ」
「は?私の、なによ」
「だから、お前の魂ちょーだいっていってんの」




奴は笑っていたけれど、目が全然笑っていなかった。満月の夜のだった。






(20070612)氷の微笑