もう既に、日が暮れようとしている。


私は駅前のマッ(・・・こほん、)ファーストフード店でバイトをしている。この時間はいつも、お客さんが途切れて数人になる。部活帰りだと思われる学生さんがちらほらみられる。もうすぐで、夜になり人が満タンになる前のこのひととき。私が最も好きな時間。


すると、自動ドアの向こうに数人の男子がいた。なにか話し込んでいるみたいだ。・・・なんだろう?入るのか入らないのか決まったのか、男子たちは店にはいってきた。結構にぎやかで、静かだった店内が少しにぎやかになった。




「いいか?さっきのアレ、言うんやで」
「罰ゲームなんだからな!」
「わかってる!そう何度も言うな・・・」
「にしし・・・楽しみだC!」




人数にして、総勢6人・・・店内をにぎやかにするには十分な人数だった。しかも、(罰ゲームってなんだろう・・・?)この店でするらしい。めんどうなことにならなきゃいいんだけどね・・・。私がそう思っていると、さっきの団体の中の1人であろう男子がレジへ来た。(あ、注文かな)(みんな休憩中か・・・私がレジしなくちゃ)サッとレジへ出て、マニュアルどおりに進めようと、マニュアルを思い出しながら進めた。




「ご注文はお決まりでしょうか」
「・・・ああ」
「・・・」
「・・・」
「・・・」
「・・・」
「・・・あの、」
「アーン?」
「ご注文は・・・」
「・・・、」
「あ、すいません!もう1度お願いします」
「・・・、・・・円」
「え?なんでしょうか」


「スマイル、0円・・・くれ」




・・・は?ええっと、スマイルって・・・わ、笑うことだよね?っていうか、このメニューにある、ふざけた"スマイル0円"って頼む人がいたのね!じゃなくて!え、これ・・・私がするの?え?するの?しなくちゃなの?ってかこの雰囲気、したほうがいいみたいな雰囲気になってらっしゃいますけど!じゃなくて!頼んだ本人、耳がすごく真っ赤になっていた。恥ずかしいのはお前だけじゃなくてこっちもなんだよォォオ!!




「・・・まだかよ?」
「あ、えーっと・・・少々お待ちください」




あー休憩中すみません!あ、の・・・スマイル0円頼んできた方がいらっしゃるんですけど・・・え?仕方ないからしてやれって?そんなバカなー!ははは!冗談もほどほどに・・・って、本気ですか?!ええええ?!え、なんですか?これしなかったら今月のバイト代減給しちゃおうかなって?!まじですか?!嘘ォォオ!ええええ?!そんなら、私しますよ!死んでも笑顔でいますから!そう、これは時給780円のためなのよ!私のお小遣いのためなのよォォオ!




「お、お待たせしました・・・」
「?はやくしろよ」
「(コイツ、開き直ってやがる・・・!)わかりました・・・サン、ニ、イチ、」



にっこり




・・・恥ずかしい。超恥ずかしい。目の前の男子・・・すっごくこっちのことみてるし・・・ああああ!穴があったら入りたいよ!やめて・・・もう見るのはやめてください。切実に。


私はしばらく笑顔でいたが、さすがに数分たって、「そろそろ、いいですか・・・?」ときいて、笑顔をやめた。目の前の男子は、何も言わずに、一緒に来た人たちのもとへ戻っていった。・・・はあ、疲れた。















「いやーマジで言うなんてな!」
「思うてもみぃひんかったわ」
「でもかっちょEかったよ!」
「しかし、あの店員もよくやったよな・・・」
「あれは肝が据わっとるわぁ」
「跡部〜?どしたの、さっきからずっと黙ってるけど・・・」


「・・・いや、なんでもねぇ」




じゃ、注文しに行くか!と、先ほどの男子がいる団体がレジに近づいてきた。・・・よく見たら、美形ばっかりだった。まさにこれこそ、イケメンパラダイス。もちろん、先ほどの男子も中には混ざってて。・・・よほどの神経の持ち主なのだということがわかった。私は先ほどのように、マニュアルどおりに進めた。




「ご注文はお決まりでしょうか」
「あ、さっきの店員だろ、アンタ!」
「せやな・・・なんや、結構ベッピンさんやんか」
「侑士、こんなとこでナンパしてんじゃねー!」
「まだしてへんやんか!岳人、人聞き悪いで!」
「本当のことだろー?」


「あの・・・?」


「オラ、店員困ってんだろーが」
「うるせー!宍戸のくせに!」
「宍戸さんはなに食べるんですか?」
「俺か?俺は・・・」
「あ、俺抹茶のフルーリーが食べたE!」
「じゃ、俺もそれにすっかな」
「じゃ、俺もそうします!宍戸さんと一緒の・・・」
「鳳キモいC」


「・・・ご注文、まとめていただけませんか」




つか、こんなときの対処法とかマニュアルには載ってなかったしね!マニュアルのくせにね!(ああ、もう!うざったすぎる・・・)ふと、視線を感じてその方向を見ると、先ほどの男子と目が合った。ええ、もう、バッチリと。少し気まずくて、さっと目をそらした。・・・今の人も、もちろん美形。まだ少し視線を感じる。慣れない、なあ(そんなにさっきの笑顔が悪かったんですか?!)(ええ、そりゃあ悪いでしょうけど!)(そんなに見なくったって・・・)




「・・・オイ、」
「へ?あ、なんでしょうか」
「名前、」
「?名前?」
「お前の、名前」
「私ですか?です」
「下は?」
です」


「・・・そうか、」




ちょうど、一緒にいた男子たちは言い合いをしていて、こちらのやりとりに気づいていないみたいだった。なんで名前なんて聞いたんだろう・・・?そんなことを考えていたら、注文がまとまったみたいで、私は考えるのをやめた。まあ、そんなに気にしなくてもいいよね。







その日から、今日と同じ、この時間に、彼はやってくるようになった。
今日と同じ、コーヒーを頼んで。









( 20080518 恋だなんて、いやいや、そんなはずは )