私は毎日教室の花を変えている。最初は水をあげるだけだったのだけれど、なんとなく、つまらなかったから花も毎日取り替えてみることにしてみた。勿論誰も気づくはずがないとばかり思ってた。今日も前日とは違う花を教室の教壇の上に乗せて、前日飾った花を片付けていた。そうしたら、一人の男子が入ってきた。 同じクラスの不二くんだった。 まさか、不二くんが入ってくるとは思っていなかったから、暫く時が止まったかのように私は指一本たりとも動かさないでいた。否、動かせないでいた。勿論、不二くんの顔など見れる筈もなくて私はただただ俯いていた。私には途轍もなく長い時間に感じたが、実際にはそんなに経っていなかったらしい。時計の針はそんなに進んでいなかった。不二くんの視線が私に向いていると思うと、思いのままに体が動かなかった。すると、大丈夫?と声をかけられた。 「えっあっだだ大丈夫、です」 「花、変えてたの?」 「ま、あ・・・」 「そうか・・・じゃあ、毎日花が変わってたのはさんが変えてたからだったんだね」 え・・・。気づいてて、くれたんだ。いや、気づいててくれた人がいたんだ。例え私がしていると気づいていなくても、花が変わっているということに気づいてくれている人がいたことに私は感動した。私はぎこちなくも花の片付けの続きを始めた。しかし不二くんがそこを動こうとする気配はまったくなくて、私は声をかけてみた。 「あ、の・・・」 「なに?」 「何か、用・・だったのでは?」 「ああ、ちょっと忘れ物を・・ね」 「?そうですか」 「まあ、時間も時間だし・・コートまでいけないだろうから、ここにいるよ」 私は視線を気にしないように、いつものように花を片付けた。結局は視線を気にしてしまって、花を綺麗に片付けることができなかったのだけれども。花を片付けて、教室に帰るといつもより時間が早かった。多分、さっきのことですごく動揺しているんだと思う。しかも、教室にいるのは不二くんだけだった。不二くんは笑った。 「クスッおかえり、さん」 「あ、と・・・ただいま?」 「いつから花、取り替えてるの?」 「え?あ、・・・いつだろ?でも、まだ結構最近だよ」 「僕が気づいたのは5月くらいだったけど・・・やっぱり、それくらいからかな」 「私も、それくらいからだったと・・思う」 不二くんと普通に喋っていたが、不二くんと喋ったことがなかったということに気づいた。でも、基本男子が苦手な私なのに、初めて話す男子とこれだけ普通に喋れるということは、やっぱり、不二くんのオーラがとても優しいからなんだろうなあと思った。だって、女子みたいに優しくてふんわりしているオーラみたいに感じる。不二くんとは、話しやすい。少し廊下の方から、男子の声が聞こえた。あ、そろそろみんなが来る頃だ。「じゃあ・・・」そういって、自分の席へと戻り、読書を始めた。とくん、とくん、授業が始まってからもいつもより少し早い鼓動だった。 |