もう既に暗号と化してきている数学が終わって、だらーんとだれていたら担任が来て、「次は女子は家庭科室へ移動な」といって家庭科室の方を指差した。確か次は、・・・英語だったかな。英語の担当が病気かなにかになったのだろう。女子はきゃあきゃあ言って盛り上がっている。その光景をぼーっと見ていたら、誰かが私に話しかけてきた。




さんは誰かにあげるの?」
「え、私は・・別に」
「そうなんだ」




確か・・・佐中さんだったっけ。なんかすごく残念という顔をして違う子のところへ行ってしまったような・・・うーん、あからさまに残念な顔をしないでほしいな・・私だって、気にしてるのに。・・・やっぱり、羨ましい。友達が、「、いこ」と笑顔で言ってきた。私はうんと軽く返して家庭科室へ向かった。


授業が終わって教室に戻った。そこには不二くんしかいなかった。多分彼もこれから出て行くのだろう。私が作ったのは、チェリーパイだった。しかし・・・あげる人がいない。私は丁寧にラッピングしたチェリーパイをもって、静かに教室に脚を踏み入れた。不二くんは、「あれ、さん?」となぜか不思議そうにこっちを向いていた。




「あ、授業・・終わったから」
「そうなんだ。なんか作った?」
「多分みんなお菓子・・・」
さんは?」
「チェリーパイ、かな」




へえ、と不二くんは頷いた。どうしよう・・これ。あげちゃおうか・・・あ、そっか。不二くんはこれからたくさん貰えるんだった。私のなんか貰ってもしょうがないよね。少し、沈黙が続いていると不二くんが、「さんは誰かにあげるの?」と笑顔で聞いてきた。私はと、とんでもない!と手を振って否定した。




「じゃあさ、」
「う、うん・・」
「僕に、頂戴?」
「うん・・・ええ?!」




不二くんは駄目かな、と残念そうな顔で私を見ている。そ、そんな顔で見ないで・・・こっちが辛くなってきてしまった。だって、私が不二くんに渡したら他のあげたい子にも不二くんにも迷惑・・だよね。私が、「不二くん・・の迷惑に、なる」というと不二くんは笑って、「じゃあ、こう言い換えるよ」といった。




「君のが欲しいんだ」




私は俯いて、「これ・・だけど、おいしいかはわからないよ」といって渡した。顔が熱い。あんな恥ずかしい台詞をかっこいい不二くんから聞けるとは思わなかった。不二くんは次理科だからね、と言って行ってしまった。教室には、さっきの台詞に顔を赤面させてしまった私だけが残ってた。




ステップ・バイ・ステップ #03(20070609)