もっと、彼の笑顔を見たい




そう思った。まあ、不二くんはいつも微笑んでいるけれど。なぜか、私だけに笑って欲しいと思ってしまった。有り得ないことなのに。彼の微笑む姿を見かけるたびにいつも思うようになっていた。私は次の授業が選択だったことに気づき、別の席に移動した。私がいつも使っていた席には佐中さんがいて、「ごめーん。今日ここ、使わせて?」といってきた。話に夢中になっている佐中さんを無理やりどいてもらうわけにもいかない。私は「あ、うん」としか言うしかなかった。



他に空いている席は、と・・・ひとつだけ、あった。周りの子に「ここ、使っていいの?」と聞くと、「うん、空いてるのそこだけでしょ?座りなよ」といってくれた。私は座り、授業の準備をした。そこでふと思う。この席、誰の席だろ・・・。流石に机の中を覗くわけにもいかないので、机の上の落書きで判断することにした。



よく見ると、面白いのが描いてあった。猫・・だろうか。というか、落書きは全て逆さまだった。・・あ、前の席の男子が描いたのか。それなら合点がいく。ちょっと考え込んでいたら、後ろから、「ちょっと、いいかい?」と聞きなれている声が聞こえた。




「ふ、不二くん・・」
「この席使ってるの、さんだったんだね」
「あ、今日だけ・・」
「そうなんだ」




不二くんは机の中をごそごそし、ノートを取り出した。忘れ物かな?不二くんは、「邪魔してごめんね」とすまなそうにいった。私は、「ううん!まだ始まってなかったし・・・」手を振りながらいった。不二くんはじゃあね、といって小走りで教室を出ていった。



ここ、不二くんの席だったんだ・・・。この落書き、不二くんの字じゃあないよなあ・・確か、不二くんの前の席は菊丸くんと聞いたような気がする。とすると、この落書きは菊丸くんか。私はもう1度机の上の落書きを見た。ふと見ると、相合傘が描いてあった。菊丸くん、可愛いな・・・誰と誰のだろ。消えかけている相合傘の中を見てみると、そこには、「え・・私?」私の名前と、不二くんの名前が書いてあった。早くなる、鼓動。授業など、まったく耳に入らなかった。




ステップ・バイ・ステップ #05(20070611)