午後の授業くらいから、雨が降り始めた。天気予報に反して、私は折り畳み傘を持ってきていた。お気に入りの傘だった。生徒玄関から出てみると、雨は窓から見たときよりも少し強くなったみたいだった。雨は嫌いじゃない。


私が少し空を眺めていたら、隣に不二くんがきた。不二くんは困った顔をしていた。私は、「どうかしたの?」というと、不二くんは、「うん・・傘を忘れてね」といった。私は折り畳み傘を差し出し、「これ、使って」といった。不二くんの困った表情はどうも苦手だ。




「でも、さんが濡れるよ」
「私はそれほど遠くないし・・大丈夫」




私がそういうと、不二くんは、「じゃあ、2人で帰ろうか」といった。あ、相合傘・・・。私は、「ふ、不二くんがいいなら・・」といった。迷惑じゃなければ、いい。私は嬉しい限りだ。不二くんは笑って傘をさし、「じゃあ中にお入りください、お姫様」といった。絵になっているところが凄いと思う。


いつになく、私は緊張した。すごく近くに不二くんがいる。そのことだけで鼓動が早くなる。私は何の話題も思いつかなかった。すると、不二くんは、「さんは彼氏とかいるの?」といった。私はいきなりのことで吃驚して、不二くんを凝視した。




「い、いないよ・・!」
「じゃあ、好きな人は?」
「え、っと・・・」




私はどういえばいいかわからず、顔を赤くしたまま俯いた。不二くんは、「まだわかんないとか、そんな感じ?」といってくれた。私は、「そんな感じ・・よく、わかんないから」といった。ふいに、不二くんが立ち止まった。私は、「あれ、不二くん?」と聞いた。不二くんは、黙って私の顔を覗き込んだ。私はわけがわからず、状況が呑み込めないでいると、ふいに唇に暖かい何かがあたった。不二くんの顔が離れて、ようやく、キスされたことに気づいた。




「え、あ・・ふ、不二く・・」
「あ・・ごめんね、さん」




その後は会話がまるでなかった。不二くんは私の家まで、送ってくれた。顔が熱い。唇も、火傷をしたみたいに熱かった。




ステップ・バイ・ステップ #09(20070616)