何度も帰ろうとした。学校の前を通って帰る他校生たちに凝視されたり、部活が早く終わって帰る生徒たちに凝視された。恥ずかしい。けれど、不二くんとどうしても話しておきたかったから。私は校門のところにおっかかって、不二くんが来るのを待った。 日が暮れてきた。不二くんにアポをとっておけばよかったのかもしれない。でも、そうしたら、不二くんは部活よりも優先してきてしまうかもしれない。不二くんの迷惑にだけはなりたくない。俯いていると、遠くから声がしてきた。テニス部、終わったのかな。 「あっれー?さんじゃにゃい?」 「え?」 「おーい、さん!」 私、呼ばれた?私が顔を上げてみると、菊丸くんが手をぶんぶんと振っていた。もしかして、後ろの人たちはレギュラーの人たち?恥ずかしかったから、私はちょっとだけ、手を振った。不二くんは、私のところまで走ってきてくれた。不二くんは、「どうしたの?」といった。私は、「ちょっと、不二くんと話がしたかったから・・」といった。 「じゃあ、ごゆっくりねーん」 「クスッ少ししたら行くよ」 テニス部はみんな仲がいいのかな。後ろにいるのは多分、後輩だよね。私は、「あ、ごめんなさい・・」と謝った。不二くんは、「そんなの、気にしてないよ」と笑った。胸がきゅんとした。やっぱり、不二くんに恋してるんだろうな。私は率直に、「その・・あのキスの、意味を知りたくて」といった。不二くんは苦笑いをして、「知りたい?」といった。なんて言われるかと思うと、緊張した。少し俯いていたら、ふわっと不二くんに抱きしめられた。私は、「え、ちょ・・不二くん?」と不二くんから離れようと手で不二くんを押した。けれど、不二くんは離れようとしなかった。不二くんは、「鈍いね、さん・・」と囁いた。え・・?私は思考がついていかなくて、手から力が抜けた。 「その、鈍いってのは・・」 「僕が、さんを好きだから・・だよ」 私は小さく、「私も、・・です」といった。私は泣いた。嬉しくて、夢みたいで、泣いた。不二くんの私を抱きしめる腕の力が少し強くなった。私はもう1度、「好き、です」と顔を上げていった。不二くんは、にこっと笑った。そして、触れるだけのキスをした。幸せの味がした。 |