終わった。終わってしまった。目の前のフェンスがこれほど邪魔だとは思わなかった。今すぐに幸村を抱きしめたい。お疲れ様、かっこよかったよって・・いいたい。幸村が、愛してやまないテニスをするためにどれだけ苦しんだか、私は知っている。私は幸村自身ではないから幸村の本当の苦しみなんて知らないけど、それでも、幸村が苦しんできたことくらいは見てきたから、わかる。私は瞬きもせずに、閉会式をみた





「幸村・・・」
「ずっとここにいたの」
「うん」
「暑かっただろ?」




小さく首を振った。幸村は既に制服に着替え終わっていた。少し汗ばんだ首元から、シャワーも浴びずに来てくれたんだと思った。幸村は笑顔を崩さない。だけどその姿が痛々しかった。全国三連覇・・これは私たちの目標だった。幸村を中心に、みんな今まで頑張ってきた。私はずっと見てきた。だから、悲しい。幸村は、「さあ、そろそろ行こうか」といって手を差し伸べた




「幸村・・は、悔しくないの」
「・・・」
「幸村、無理しなくていいよ」
「無理なんか・・」
「私しか、みてないよ」




私がそういうと、幸村は私の肩に額をのせ、私を抱き寄せた。「ゆき、むら・・・」掠れた声しか出なかった。あまりにも、幸村を小さく感じたから。そう、私たちはまだ中学生。外見はともかく、まだ、中学生なのだ。私は幸村を、小さい子どもをあやすようにポンポン、とたたいてあげた。幸村の肩が小さく揺れた。ああ・・幸村は静かに泣いている。「・・っ、う・・・」たまに聞こえる嗚咽が私を切なくさせた




「幸村・・高校でも、テニス続けよう」
「・・・」
「そして青学、ぶっ潰そう」




私がそういうと、幸村から嗚咽は聞こえなくなった。変わりに、笑い声が聞こえてきた。「ゆ、幸村・・?」というと、幸村は「ああ・・潰そう」といった。幸村は顔をあげて、私の方に向き直った。笑っている。(え、と・・心なしか、く・・黒いオーラがみえるよう・・な?)私は幸村から離れようと体を動かした瞬間、がっちりと幸村に掴まれた。私はゆっくりと振り向いた




「ゆ・・幸村、今日は帰りたい・・なー・・なんて」
「ははは・・なにいってるの、
「そ・・そうですよ、ねー」
「逃がすわけないだろ」
「はは、は・・・」
「それに・・・」
「?」




「今日は俺のこと、慰めてくれるんだろ?・・・」




抱きしめながら、耳元で・・しかも熱っぽい声で囁かないでください!切実に!幸村の怪しい微笑みとともに、家へ帰った。(わ、私の家じゃなくて・・ゆ、幸村の家だから!っていうか、慰めるって・・・)





ワイシャツ越しの体温