日吉と付き合いだしたころくらいから本格的に嫌がらせは始まった。付き合う前までは陰口くらいだったのに、今ではお呼び出しをしょっちゅうされるようになった。慣れたもんだ。最初はどんなに怖い女の子が待っているのかと思いきや、おとなしげな、いかにもお嬢様といった感じの女の子3人がいた。ホッとしたのもつかの間、すぐに殴られ蹴られてしまったことは忘れない。油断した。




「ねえ、ちょっと聞いてるの!」
「シカトなんていい度胸ね!」




言われたあとに広がる痛み。殴られることも蹴られることも慣れた。いや、実際慣れることなんてないのだろうけれど。言い返したってさらに酷くなるだけだ。私は漫画の中のヒロインではない。別に格闘技を習っていたわけでも、なんかの能力をもっているわけでもない。ただ黙って、このときが過ぎるのを待つだけ。




「何も言わないのね」
「つまらない」
「日吉くんもなんでこんな女なんかと付き合ってるのかしら?」
「脅迫されたんじゃない?」




きゃはは、と笑いながら去っていく女の子たちをみて、今日は終わったのか、と思う。痛む体を無理やり起こし、よたよたと歩く。ここは裏庭。人通りが少ない、というか誰も来ない。だから私がこんなことをされているのなんてわかるわけがない。ゆっくりと歩いて校舎へ向かおうとしたら、目の前に日吉があらわれた。目がバチッとあったと思ったら、ズカズカと近づいてきた。(息、きれてる・・・)(探して、くれたのかな?)




「ひ、よし・・・」
「またお前は黙ってたのか」
「言ったって無駄だし」
「せめて呼び出しされたことくらい俺に言えよ」
「・・・ごめん」




じっと見つめられて気まずくなって目を逸らした。日吉が心配してくれているのはわかる。誰だって、自分の好きな人が知らないところで痛めつけられるのは嫌だろう。私も嫌だ。けれど、それは逆効果になってしまう。彼女たちをさらに怒らせてしまう。それ以上に、日吉に嫌な思いをさせたくない。日吉に傷を作って欲しくないから、というのは私のわがままなのだろうか。目を逸らしたまま考えていたら、手を引っ張られた。




「?なに?」
「保健室、いくぞ」
「あ、うん」
「・・・歩けるか?」
「これくらい平気」




笑ってそういった。こんなのは平気。だって、日吉が心配してくれているから。それに、




「私、いつも負けたとは思ってないから」
「・・・」
「誰よりも日吉のこと、好きだから」
「なっ・・・」
「これだけあれば、十分、でしょ?」




日吉を見上げていった。太陽が眩しかった




とてもきれいな強い人

(そして俺の1番好きなヤツ。)(傷を負いながらも笑いかける君が眩しくて、)